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オムニバス2010-09-22 発売

SHIBUYA9010

2010-09-22 発売 / LACD-0185 / ¥2,619(税込) / LASTRUM

オムニバス2010-09-22 発売

SHIBUYA9010

日本のポップ・ミュージックが、「歌」を超えて「音楽」として認められた瞬間の記録  90年代を「失われた10年」と語る人は多い。確かに日本は91年の湾岸戦争とその後のバブル崩壊によって、経済面では激しく乱高下したカオティックなディケイドだった。しかし、文化は逆境の中でこそ、それに抗うように発展するもの。90年代の日本のカルチャーの中でも、最も創造的果実を生み出したもののひとつが“渋谷系”と呼ばれる一群のミュージシャンと彼らとコラボレートするグラフィック・デザイナー、写真家、映像作家たちであったことに異を唱える人は少ないだろう。  渋谷系という言葉を最初に使ったのは、当時HMV渋谷店(1990年オープン)の邦楽売り場の名物バイヤーだった現タワーレコードの太田浩氏という説、 1992年創刊のインディーズ・マガジン『バアフアウト』編集長の山崎二郎氏説、『ロッキング・オン・ジャパン』の山崎洋一郎氏説、当時『ロッキング・オン』で現『スヌーザー』編集長の田中宗一郎氏説など多々あり、真偽が定かでない。またそういうくくり方に対して「自分(たち)は渋谷系ではない」と拒否するミュージシャンたちもおり、その定義も一筋縄とはいかない。  ここで僕は、シンプルに「渋谷近辺の外資系レコード店で火がついた、洋楽とのシンクロニシティを持った良質な日本のポップ・ミュージック」と規定したい。そこにはロックもヒップホップもハウスもレゲエもテクノも含まれる。それらのジャンル全部が好きな人というのはかなり限られるだろうが、しかし、それら全部を渋谷系という名のもとで聴かせてしまう、または好きにさせてしまうような魔力が当時のこのマジカル・ワードにはあったのだ。  このコンピレーション盤はそれら渋谷系の代表的なアーティストの今でも色褪せない曲が収められている。渋谷系の筆頭格であるピチカート・ファイヴ、90年代初頭にNYからセンセーショナルにデビューしたディーライトからソロになったテイトウワ、今では漫画『デトロイト・メタル・シティ』で知られる(?)渋谷系の歌姫カヒミ・カリィ、インディーズ・ブームの火付け役となったラブ・タンバリンズとそのレーベル「クルーエル・レコーズ」の箱バン的グループ「クルーエル・グランド・オーケストラ」、今年デビュー20周年のイベントを行なったスチャダラパー、今もなお音楽的冒険を怠らない歌姫UA、元プラスティックス〜メロンの中西俊夫氏、高木完氏、藤原ヒロシ氏、屋敷豪太氏、工藤昌之氏が1988年に設立した日本初のヒップホップ・レーベル「MAJOR FORCE」から中西俊夫氏のユニットSexy T.K.O、The Orchid、そして彼らがロンドンに設立したMajor Force Westからの同名ユニットらが収められている 。レーベルの関係上、どうしても収録出来なかったアーティストが若干いるのは残念だが、逆によくここまで集めたと関係者の労をねぎらいたい。  今こうやって改めて聴き直してみると、「こんなに違うアーティストや楽曲を渋谷系というひとつの括りで語っていたのか」と呆れる気持ちもあるが、往々にしてムーブメントとはそういうもの。70年代から80年代初頭にかけてのニューウェイヴも、激しいパンク直系から静謐なアンビエント、民族音楽的なものまでが含まれていたわけだから。しかし、ニューウェイヴも既存のロックに対するアンチテーゼとしての側面が大きくあったように、この渋谷系もそれまでの歌謡曲や日本のバンド・ブームといったものへのアンチテーゼとしての先鋭性や越境性があったと思う。  また音楽産業がアナログ・レコードからCDへ移行し、最初は否定的に思われていたCDジャケットを信藤三雄氏率いるコンテムポラリー・プロダクションを筆頭にしたデザイナーたちが次々と革新的な特殊パッケージ・ジャケットを開発して一気にガジェット化したこと、タワーやHMV、ヴァージンなどの外資系レコード・チェーンが広まり洋楽・邦楽の垣根を越えた商品展示が増えたこと、またクラブが大きなメディア化していったことなど、様々な要因が渋谷系への追い風になったことは間違いない。  しかし、状況が良かったから、音楽産業にとって良い時代だったから渋谷系が生まれたとは僕は思わない。いやむしろ、その直前まではかなり荒涼たる状況だったと認識している。ヒット曲はCMとドラマのタイアップばかり(今も同じか?)、一方ではバンド・ブームの喧騒の中で、それらの文脈に乗らないタイプのミュージシャンはかなり居心地の悪い時期だったはず。  そんな状況から生まれた、これらの楽曲を通して感じられるのは、「自分たちが日本で、そして世界で一番面白い音楽を創っている」と高らかに謳っているかのような弾けた創造性と遊び心、世界の音楽シーンと共振し合おうとする意思だ。ここに収められたミュージシャンの多くは、デビュー後、海外でのリリースやライブを実現し、彼らがユニバーサルな輝きを持っていることを証明した。それは日本のポップ・ミュージックが、「歌」を超えて「音楽」として認められた瞬間でもあった。  優れたポップ・カルチャーとは、登場したときに旬でありながらも時代を超えるもの。『SHIBUYA9010』、ここには90年代の東京の最も良質な時代精神が収められている。これをノスタルジーとして聴くのはもったいない。継承するか、あえて否定するものとして聴いて欲しい。                         菅付雅信(編集者)    

  • 1. Cherish Our Love/Love Tambourines
  • 2. Family feat.Ellie(Cornelius Remix)/Crue-L Grand Orchestra&Ellie
  • 3. マジック・カーペット・ライド/ Pizzicato Five
  • 4. Lolitapop dollhouse/ カヒミ・カリィ
  • 5. Son of Bambi/TOWA TEI
  • 6. Vibe P.M.(Mastera At Work Mix)/Mondo Grosso
  • 7. スチャダラパーのテーマPt.2/ スチャダラパー
  • 8. The Re-Return Of The Original Art Form(Re-produced By Cut Chemist)/Major Force West
  • 9. I Will Call You/The Orchids
  • 10. TOUCH ME TAKE ME/Sexy T.K.O.
  • 11. 強く儚い者達/Cocco
  • 12. Trouble Woman In Love(Harvey’s Full Mix)/Eli+Hiroshi
  • 13. BOHEMIAN/MURO
  • 14. アントニオの唄/UA
  • 15. Unknown Language/Port Of Notes

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